三陸に咲く花

 このページでは私が主に活動していた大槌町周辺~種差海岸あたりまででみられる植物を紹介しています。*すべての写真が三陸地域で撮られたものではないことにご注意ください。★マークをつけた種は他の地域ではあまり見られない、三陸名物とも言えるような植物です。季節感は、生活していた大槌町周辺が基準です。南北に長いエリアなので、場所によって時期はある程度ずれるとは思います。

早春に咲く花(3月〜4月上旬)
三陸の低地では積雪がほとんどないため、三陸の早春は内陸部に比べて比較的早く2月末頃から早春の花が咲き始めます。

フクジュソウ
春一番に咲き始める春植物.里地の南向き斜面では2月末から咲き始める.夏には葉を落として枯れてしまう.
マンサク
名前は”まず咲く”という意味といわれる.まだ雪が残る早春の森に咲く.
イワウチワ
海に近い山の尾根沿いに生えているが自生地はやや限られる.群生地ではピンクの絨毯のように見えて非常に美しい.
フキ
お馴染みの山菜,ふきのとうが成長した姿.鮮烈なほろ苦い味とともに,三陸の冬は明ける.
イヌコリヤナギ
バッコヤナギ

春に咲く花(4月中旬〜4月下旬)
3月上旬に早春が始まったかと思ったら,本格的な春が始まるのが遅いのが三陸の特徴です.4月上旬に春の進行が早い山形県の沿岸部に行くと,こちらでの4月下旬くらいの季節進行になっていて驚きました.

カタクリ
葉が出る前の落葉樹林に花を咲かせる春植物.日本海側ほどの大群落はありませんが,時々見かける植物です.片栗粉は,本来は本種の地下茎から作られた.
エンレイソウ
沢沿いなどに生育する.黒紫色の花と大きな3枚の葉が特徴的.
タチツボスミレ
各地の林縁,草地で普通に見られます.三陸周辺ではスミレのトップバッター.
ヤマエンゴサク
落葉樹林の林床に生育する春植物.カタクリと同じく多雪地ほどは多くない.
フチゲオオバキスミレ
オオバキスミレの変種で,三陸~北海道南部を中心に分布する.オオバキスミレと異なり,群生せずやや乾燥した林内に生育する.
エドヒガン
三陸で山に生える桜の多くは本種.高所ではオオヤマザクラやカスミザクラも見られる

芽吹きの季節に咲く花(4月下旬~5月中旬)
4月中旬に入り木々の展葉が始まると、三陸で最も季節進行が早い時期が訪れます.

ミヤマエンレイソウ
エンレイソウから1週間ほど遅れて咲き始める.エンレイソウよりもやや薄暗い環境に多い.
ナンブワチガイソウ
薄暗いスギ林内などに生える.環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に選ばれている.
タニウツギ
5月頃にはそこら中に咲いている.日本海側のイメージがありますが,太平洋側の三陸にも産する.
サナギイチゴ
小川沿いなど湿った明るい草地に生えている.環境省絶滅危惧Ⅱ類の種だが,岩手県内には比較的多く産する.
オオハナウド
三陸では,北斜面や明るく湿った草地に多く生えています.
センボンヤリ
明るく林床が良く整備されたアカマツ林などに生えている.三陸の海岸の景勝地では,駐車場から少しアカマツの山道を抜けた先に展望台等があることが多いですが,そんな道によく生えている植物.秋には閉鎖花を出す.
アズマギク
海岸部と高原の背丈の低い草地に見られる.岩上に生えるものもある.
コケリンドウ
海岸沿いの背丈の低い草地にみられる.フデリンドウよりも花期が遅く,6月頃まで見られる.
ホタルカズラ
明るい海岸草原に見られる.
ドクウツギ
県北の海岸沿いに多い。
ヒメヘビイチゴ
明るい沢沿いの草地に普通.
ヤマツツジ
三陸を代表するツツジ.五葉山赤坂峠や室根山には大規模な群落がある.
クリンソウ
樹林下の湿地に生育する。シカによる食害で減少中。
ウワミズザクラ
春の終わり頃、ブラシ状の花を咲かせる桜の仲間.

初夏に咲く花(5月下旬〜6月)
林床には花が少ない時期ですが,一方で海岸や砂浜、草原、干潟のような特殊な環境では色々な花が咲き始める時期です.

ハマボウフウ
環境の良い砂浜草原に生えるセリの仲間。生育地は減少中。
ウミミドリ
塩性湿地の植物.各地の河口に見られるが,岩手県内では少ない.
カワヂシャ
湧水や小川付近の明るい水辺に生える植物.花期は長めで9月頃に咲いていることもある.
キバナノヤマオダマキ
高原の植物のイメージだが,三陸では低地から産する.
センダイハギ
海岸付近の草原に生えるマメ科の草本.八戸以北では普通種だが,三陸ではかなり少ない.
ヤグルマソウ
沢沿いに大群生する大型の植物。星型の葉が特徴的。数は多いが日当たりの悪い場所では中々花をつけない。

梅雨頃に咲く花(6〜7月)

ムヨウ(ヒトツバ)イチヤクソウ
腐植の多いアカマツ林に稀に生える.菌類に寄生する.
スナビキソウ
県北海岸の砂礫地に稀に生育する。
マルバダケブキ
中部地方のものは赤っぽい黄色で真夏に咲くが,三陸では花が黄色く6~7月頃に咲く.
アサツキ
海岸草原に生える。宮古以北に多い。ムラサキツメクサと混生して紛らわしいことがある。
ノハナショウブ
海岸付近の草原や日当たりのよい湿地に生えるアヤメの仲間.
キンセイラン
スギ林内に稀に生える希少なラン.滅多に見られないが,ある場所には100株以上の群落が広がっている.
スカシユリ
はまゆりとも呼ばれる.岩礁海岸の岩場に生え,6~7月頃に咲く.大槌町での産地は局所的.
エゾアジサイ
やや日陰の沢沿いなどに生える.
クルマユリ
中部地方では高山植物だが、東北地方では里山や低山の植物。

夏に咲く花(8月)

ハマナス
海岸沿いの草地や砂浜に分布する.花期は長く,早いと5月中旬頃から花を咲かせる.
キキョウ
草原に見られる植物だが,三陸では県北の海岸の岩場に群生が見られる.
ハマヒナノウスツボ
花崗岩質の海岸の崖地や岩礫地に生える.エゾヒナノウスツボよりずっと小さい.岩手県中部以南では本種が見られる.数少ない三陸固有種の一つ.
エゾヒナノウスツボ
海岸の岩場に生える.岩手県北ではこちらが見られる.
シロヨモギ
海岸草地や砂地に生える全体に白い毛に覆われたヨモギの仲間.
タケニグサ
道端などに生える雑草.目立たないが,よく見ると花火のようで美しい花をつける.
ハンゴンソウ
湿地や道路沿いの草地などによく生える.
クマヤナギ
林縁に普通に見られるつる植物.果実は翌年の夏に熟するため,花と果実が同時に見られる.
ミズアオイ
盛夏に青紫色の涼しげな花を咲かせる.大槌町や釜石市の湿地に群生がみられる.
ウンラン
砂浜に生える.

晩夏~初秋に咲く花(8月下旬~9月中旬頃)
岩手の夏は短く,お盆を過ぎるとどんどん気温が低くなっていきます.この時期はイタドリ、ヨモギ、ヒキオコシなど雑草的植物の花も多く、花の数自体は最も多い時期かもしれません。

ヒキオコシ
鹿が食べないので増えているシソ科植物.
ギンリョウソウモドキ
キノコが多いアカマツ・コナラ林などに生える.ギンリョウソウよりも局所的で少ない.菌類に寄生する.
ツユクサ
道端や林縁などに普通に見られる美しき雑草.
メハジキ
山間部の道路沿いに群生する.独特の香りがあり,鹿が食べ残すので,鹿が多い地域で増加中.

秋に咲く花(9月下旬以降)
9月半ばを過ぎると秋の雰囲気が強まり、花シーズンも終わりに向かいます。

ハマギク
三陸を代表する植物.日本の野菊では最も大きい頭花をつける.南限が茨城でなければ,もう少し三陸にも花好きの人が来てくれたかも...
コハマギク
ハマギクと似ているが,海より一歩引いた場所に生える.海岸すぐそばのアカマツ林や草地に生える.
オオバショウマ
初秋の薄暗い沢沿いにひっそりと咲いている.
タコノアシ
湿地や氾濫原に生える絶滅危惧種.
カラフトニンジン
沿岸部の草地に生える中型のセリ.不思議と岩手県北ではあまり見られず,宮古~石巻あたりに産地が多い.強いパクチー臭がする。
アキノハハコグサ
草地や崖地に生える希少種.春に咲く雑草のハハコグサに似ているが,大型でよく枝分かれする.一見しょうもない造成地にもあるので要注意.
オヤマボクチ
アカマツ林などの明るい林に生える.根は山ごぼうとして食用になる.
センブリ
アカマツ林内の林道沿いの開けてかつ砂礫が露出した斜面によく生えている.胃腸薬としても利用された薬草.葉はとても苦い.
チチッパベンケイ
海岸近くの明るい岩場に見られる。三陸では最後に開花する花の一つ。
コシオガマ
砂礫の露出した平坦地に生える.自力で光合成もするが,他の植物に寄生して養分を得る半寄生植物とされる.
ヤクシソウ
明るく乾燥気味の林縁や岩場に生える.
センニンソウ
海岸近くの草地に繁茂するつる植物。8月頃から開花し、12月頭まで花が見られる。

三陸海岸エリアの植物観察名所の紹介
・種差海岸(青森県八戸市)
 三陸海岸の海浜植物の大半が見られる素晴らしい海岸。南北に10 kmほどの長さがあり、トレッキングルートも整備されている。ハマナス、スカシユリ、ニッコウキスゲなどの派手な花からフナバラソウ、ハマウツボ、ミチノクフクジュソウ、ヒメキンポウゲのような珍しい花もあり、初心者からマニアまで楽しめる素晴らしい海岸です。三陸の海岸の植物はほとんどここでコンプリートできてしまいますが、ハマヒナノウスツボはないようです。

・黒崎(岩手県普代村)
 国民宿舎くろさき荘周りの海岸や森林で植物探しが楽しめる。キャンプ場内外の林ではヤマオダマキやツクバネ、サイハイランが多くみられる。梅雨時期にはキャンプ場にキノコが多く、タマゴタケもたくさん見つかります。初秋にはシャクジョウソウやギンリョウソウモドキもたくさん生えてきます。くろさき荘の近くから狭い道を降りると、ネダリ浜という海岸に降りることができます。この海岸では、ナガボノシロワレモコウやハマベンケイソウなどがみられます。また、岩壁にはキキョウが無数に生えていて驚きました。

・真崎海岸(岩手県宮古市)
 種差海岸には劣りますが、海岸植物の群生がみられるポイントです。礫浜にはウンランやシロヨモギ、ハマベンケイソウ、草原にはニッコウキスゲやノハナショウブ、スカシユリ、ハマナスなどが咲き乱れる。ドクウツギがたくさんあり、私もここで撮影しました。森に入ると、イワウチワの群生があります。

・町方湿地(岩手県大槌町)
 東日本大震災によって被災した町方地区の湿地化した場所が、公園として整備されました。ミズアオイやタコノアシ、ウミミドリ、ミクリ、ミソハギ、カワヂシャなどを見ることができます。

★をつけた植物種(三陸名物。
フチゲオオバキスミレ、ナンブワチガイソウ、サナギイチゴ、ハマギク、コハマギク、ハマヒナノウスツボ(三陸固有種)、カラフトニンジン

 三陸とは、青森県八戸市から宮城県石巻市にわたる東北地方太平洋側の沿岸地域をさします。南部はリアス式海岸、北部は海岸段丘が発達したダイナミックな岩礁地形が特徴です。三陸沿岸部の植生の特徴としては、まず森林率がとても高いことが挙げられると思います。リアス半島部先端の崖すれすれまでアカマツやミズナラなどの高木に覆われており、海に面した岩場にやっと海岸植物が見られます。同じ東北地方の日本海側では、岬付近に背丈の低い草原やカシワやシナノキの疎林が発達するのとは対照的です。
 大槌町あたりの海岸線で優占する樹木はミズナラやアカマツです。日本海側の海岸線とは違い、カシワはそれほど多くありません。ミズメ、ヤマハンノキ、シナノキ、オオカメノキ、トチノキのような山地性の落葉樹が海岸線から見られます。場所によってはブナ、ハクサンシャクナゲ、センジュガンピ、ムラサキヤシオツツジのような深山の植物も海岸線に現れるようです。関東付近でいうと標高600~1,000m前後の気候が海岸線から始まっていると考えればよいでしょう。
 リアス式海岸の湾には河川が流れ込み、河口域に砂浜や干潟、湧水による湿地などが見られますが、日本海側や上北地方に比べると残念ながらかなり小規模です。さらに、東日本大震災以降、巨大な防潮堤の建設などによって、ただえさえ少ないこれらの環境の多くは失われてしまいました。
 夏はしばしば海霧が発生して涼しく、冬は比較的暖かいが晴天が多く乾燥します。夏に気温が上がらないせいか、一年生の雑草的な植物が少なめです。北限の植物としてはイワタバコやヤブツバキが有名で、またタブノキが半島部の先端や船越大島などにわずかに自生しています。タブノキを餌に、北限のアオスジアゲハが分布しています。この地域の特産種はごく少なく、ハマヒナノウスツボぐらいです。準固有としてフチゲオオバキスミレやハマギクが挙げられます。


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