三陸に咲く花
▲2018年7月、三陸海岸北端にある種差海岸(青森県八戸市)
このページでは、三陸沿岸部でよく見られる植物を紹介しています。三陸は、青森県八戸市から宮城県石巻市にわたる沿岸地域のことです。南部はリアス式海岸、北部は海岸段丘が発達したダイナミックな岩礁地形が特徴です。
三陸沿岸部の植生の特徴として、森林率がとても高いことが挙げられると思います。リアス半島部先端の崖すれすれまでアカマツやミズナラ、スギなどの樹木に覆われており、海に近い岩場に海岸植物が見られます。日本海側では岬付近に背丈の低い草原やカシワやシナノキの疎林が発達するのと対照的です。
大槌町あたりの海岸線で優占する樹木はミズナラ、アカマツなどです。日本海側の海岸線とは違い、カシワはやや稀です。ミズメ、ヤマハンノキ、シナノキ、オオカメノキ、トチノキのような山地性の落葉樹が海岸線から見られます。場所によってはブナ、ハクサンシャクナゲ、センジュガンピ、ムラサキヤシオツツジのような深山に多い植物も海岸線に現れるようです。関東付近でいうと標高600~1,000m前後の気候が海岸線から始まっていると考えればよいでしょう。
リアス式海岸の湾には河川が流れ込み、河口域に砂浜や干潟、湧水による湿地などが見られますが、日本海側や上北地方に比べると残念ながらかなり小規模です。さらに、東日本大震災以降、巨大な防潮堤の建設などによって、ただえさえ少ないこれらの環境の多くは失われてしまいました。
北限の植物としてはイワタバコやヤブツバキが有名で、またタブノキが半島部の先端や船越大島などにわずかに自生しています。残念ながらこの地域の特産種はごく少なく、ハマヒナノウスツボぐらいです。準固有としてフチゲオオバキスミレやハマギクが挙げられますが、いずれも三陸以外の地域にも分布しています。
このページでは私が主に活動している大槌町周辺~種差海岸あたりまででみられる植物を紹介しています。*すべての写真が三陸地域で撮られたものではないことにご注意ください。★マークをつけた種は他の地域ではあまり見られない、三陸名物とも言えるような植物です。季節感は、普段生活している大槌町周辺が基準です。南北に長いエリアなので、場所によって時期はある程度ずれるとは思います。
早春に咲く花(3月〜4月上旬)
低地では積雪がほとんどないため,三陸の早春は内陸部に比べて比較的早く,2月末頃から早春の花が咲き始めます.
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お馴染みの山菜,ふきのとうが成長した姿.鮮烈なほろ苦い味とともに,三陸の冬は明ける.
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海に近い山の尾根沿いに生えているが自生地はやや限られる.群生地ではピンクの絨毯のように見えて非常に美しい.
春に咲く花(4月中旬〜4月下旬)
3月上旬に早春が始まったかと思ったら,本格的な春が始まるのが遅いのが三陸の特徴です.4月上旬に山形県の沿岸部に行くと,こちらでは4月下旬くらいの季節進行になっていて驚きました.
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葉が出る前の落葉樹林に花を咲かせる春植物.日本海側ほどの大群落はありませんが,時々見かける植物です.片栗粉は,本来は本種の地下茎から作られた.
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沢沿いなどに生育する.黒紫色の花と大きな3枚の葉が特徴的.
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オオバキスミレの変種で,三陸~北海道南部を中心に分布する.オオバキスミレと異なり,群生せずやや乾燥した林内に生育する.
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三陸で山に生える桜の多くは本種.高所ではオオヤマザクラやカスミザクラも見られる.
芽吹きの季節に咲く花(4月下旬~5月中旬)
4月中旬に入り木々の展葉が始まると、三陸で最も季節進行が早い時期が訪れます.
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エンレイソウから1週間ほど遅れて咲き始める.エンレイソウよりもやや薄暗い環境に多い.
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薄暗いスギ林内などに生える.環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に選ばれている.
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5月頃にはそこら中に咲いている.日本海側のイメージがありますが,太平洋側の三陸にも産する.
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小川沿いなど湿った明るい草地に生えている.環境省絶滅危惧Ⅱ類の種だが,岩手県内には比較的多く産する.
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三陸では,北斜面や明るく湿った草地に多く生えています.
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明るく林床が良く整備されたアカマツ林などに生えている.三陸の海岸の景勝地では,駐車場から少しアカマツの山道を抜けた先に展望台等があることが多いですが,そんな道によく生えている植物.秋には閉鎖花を出す.
初夏に咲く花(5月下旬〜6月)
林床には花が少ない時期ですが,一方で海岸や砂浜、草原、干潟のような特殊な環境では色々な花が咲き始める時期です.
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湧水や小川付近の明るい水辺に生える植物.花期は長めで9月頃に咲いていることもある.
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高原の植物のイメージだが,三陸では低地から産する.
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海岸付近の草原に生えるマメ科の草本.八戸以北では普通種だが,三陸ではかなり少ない.
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沢沿いに大群生する大型の植物。星型の葉が特徴的。数は多いが日当たりの悪い場所では中々花をつけない。
梅雨頃に咲く花(6〜7月)
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腐植の多いアカマツ林に稀に生える.菌類に寄生する.
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海岸の砂礫地に生育する.
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中部地方では高山植物だが、東北地方では里山や低山の植物
夏に咲く花(8月)
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花崗岩質の海岸の崖地や岩礫地に生える.エゾヒナノウスツボよりずっと小さい.岩手県中部以南では本種が見られる.数少ない三陸固有種の一つ.
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海岸の岩場に生える.岩手県北ではこちらが見られる.
晩夏~初秋に咲く花(8月下旬~9月中旬頃)
岩手の夏は短く,お盆を過ぎるとどんどん気温が低くなっていきます.この時期はイタドリ、ヨモギ、ヒキオコシなど雑草的植物の花も多く、花の数自体は最も多い時期かもしれません。
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鹿が食べないので増えているシソ科植物.
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キノコが多いアカマツ・コナラ林などに生える.ギンリョウソウよりも局所的で少ない.菌類に寄生する.
秋に咲く花(9月下旬以降)
9月半ばを過ぎると秋の雰囲気が強まり、花シーズンも終わりに向かいます。
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三陸を代表する植物.日本の野菊では最も大きい頭花をつける.南限が茨城でなければ,もう少し三陸にも花好きの人が来てくれたかも…
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ハマギクと似ているが,海より一歩引いた場所に生える.海岸すぐそばのアカマツ林や草地に生える.
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沿岸部の草地に生える中型のセリ.不思議と岩手県北ではあまり見られず,宮古~石巻あたりに産地が多い.強いパクチー臭
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草地や崖地に生える希少種.春に咲く雑草のハハコグサに似ているが,大型でよく枝分かれする.一見しょうもない造成地にもあるので要注意.
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アカマツ林などの明るい林に生える.根は山ごぼうとして食用になる.
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アカマツ林内の林道沿いの開けてかつ砂礫が露出した斜面によく生えている.胃腸薬としても利用された薬草.葉はとても苦い.
三陸海岸エリアの植物観察名所の紹介
・種差海岸(青森県八戸市)
三陸海岸の海浜植物の大半が見られる素晴らしい海岸。南北に10 kmほどの長さがあり、トレッキングルートも整備されている。ハマナス、スカシユリ、ニッコウキスゲなどの派手な花からフナバラソウ、ハマウツボ、ミチノクフクジュソウ、ヒメキンポウゲのような珍しい花もあり、初心者からマニアまで楽しめる素晴らしい海岸です。三陸の海岸の植物はほとんどここでコンプリートできてしまいますが、ハマヒナノウスツボはないようです。
・黒崎(岩手県普代村)
国民宿舎くろさき荘周りの海岸や森林で植物探しが楽しめる。キャンプ場内外の林ではヤマオダマキやツクバネ、サイハイランが多くみられる。梅雨時期にはキャンプ場にキノコが多く、タマゴタケもたくさん見つかります。初秋にはシャクジョウソウやギンリョウソウモドキもたくさん生えてきます。くろさき荘の近くから狭い道を降りると、ネダリ浜という海岸に降りることができます。この海岸では、ナガボノシロワレモコウやハマベンケイソウなどがみられます。また、岩壁にはキキョウが無数に生えていて驚きました。
・真崎海岸(岩手県宮古市)
種差海岸には劣りますが、海岸植物の群生がみられるポイントです。礫浜にはウンランやシロヨモギ、ハマベンケイソウ、草原にはニッコウキスゲやノハナショウブ、スカシユリ、ハマナスなどが咲き乱れる。ドクウツギがたくさんあり、私もここで撮影しました。森に入ると、イワウチワの群生があります。
・町方湿地(岩手県大槌町)
東日本大震災によって被災した町方地区の湿地化した場所が、公園として整備されました。ミズアオイやタコノアシ、ウミミドリ、ミクリ、ミソハギ、カワヂシャなどを見ることができます。
★をつけた植物種(三陸名物。
フチゲオオバキスミレ、ナンブワチガイソウ、サナギイチゴ、ハマギク、コハマギク、ハマヒナノウスツボ(三陸固有種)、カラフトニンジン