初秋の蛾
三陸ではお盆を過ぎると一気に涼しくなり,8月下旬~9月中旬頃までを初秋といってよい気候であると考えています.比較的温暖な気候で活動する種も多いので,初秋の後半で冷え込んだ日には,深秋よりも蛾の集まりが悪い日があります.まだ夏との共通種も多いですが,特にこの時期に限って出現する種や夏眠を終えて活発になる種を紹介します.灯火には蛾類の他にキリギリス・ササキリなどの直翅類や赤とんぼ類もよく集まります.
深秋の蛾
9月中旬~10月中旬頃の深秋に出現する蛾たちは,非常に色とりどりで楽しい.初秋シーズンの終わり頃よりも個体数・多様性ともに高くなります.いわゆる冬夜蛾(キリガ)のうち秋キリガと呼ばれるものが発生する時期です.これらに混じって生き残りのカトカラ類なども混じるので賑やかです。
晩秋の蛾
紅葉の最盛期頃~葉が枯れ落ちるまでの時期を晩秋と考えています.高所では10月中旬,海岸付近では11月中旬頃から晩秋といえる時期となります.氷点下まで気温が下がる日も多い中,冷えにくい曇りの日を狙って蛾を探しに行きます.深秋の彩りも失われ,一気に顔ぶれが寂しくはなってきます.
初冬の蛾
11月中~下旬には木々の葉もほぼ落ちて、夜の森には生き物の気配がないように思えます。しかし、こんな季節でもフユシャクの仲間は活動しています。この仲間はオスにしか翅がなく、メスはコロッとしたアザラシみたいな形をしています。少し暖かい日には、越冬キリガという成虫で冬を越すヤガの仲間も見られます。クシヒゲシャチホコやウスズミカレハは越冬せず、メスにも翅がある普通の蛾ですが、冬仕様なのか非常にモフモフとしており、”冬ボンビ”と称される蛾の仲間です。初冬に該当する時期は、高所では11月上~中旬頃から、沿岸部の低地では冷えが遅く12月頃となります。
[”オガヒゲ”について]
岩手県では、幻となったオガサワラヒゲヨトウの記録があります。1990年代、11月下旬~12月上旬に盛岡市で最後に記録されて以来、国内のどこでも見つかっていません。私も岩手在住時には各地を探し回りましたが、結局見つけ出すことはできませんでした。
最後に見つかった盛岡近郊の産地は、かつて盛岡市東部に広がっていた大規模な採草地の一部で、おそらくその中で最後まで草原として残ったエリアだったのでしょう。現在は密な笹のブッシュにヤマナラシの幼樹が点在する環境となっています。地理院地図で1970年代の航空写真を見ると、広い草原が確認できます。上述の笹薮となっている場所以外は、高木に育った落葉広葉樹の二次林が広がっており、かつて草原であったとは全く想像がつきません。上述の笹薮が辛うじてかつての環境を偲ばせます。
同時期にはウンモンキシタバやギンモンセダカモクメなども得られており、良好な草原が広がっていたことが想像されます。最後の産地から10~20 km離れた場所に、小規模ながら現在も良好な草原が残る場所が点在し、このうちのどこかに生き残っていないかと期待しています。
近縁種はセリ科の根茎に穿孔することが知られています。岩手県周辺では、これをヒントに以下のようなセリ科植物が生えている地点でライトトラップを行いましたが、まだ得られていません。
Site 1: 蛇紋岩地の岩壁:ホタルサイコ
Site 2: 石灰岩地の岩壁:ホタルサイコ、イブキボウフウ
Site 3: 半自然草原A:エゾノヨロイグサ、イブキボウフウ
Site 4: 半自然草原B:エゾノヨロイグサ、イブキボウフウ
Site 5: 半自然草原C:エゾノヨロイグサ、イブキボウフウ、オオバセンキュウ
Site 6: 海岸草原A-1:エゾノシシウド、エゾボウフウ、オオハナウド、マルバトウキ、エゾノヨロイグサ、ハマゼリ、セリ
Site 7: 海岸草原A-2:ハマボウフウ
Site 8: 海岸草原B:エゾノヨロイグサ
正直、調査し尽くした感じは全くありません。糖蜜トラップでの調査は場所によっては行えておらず、ライトも条件が良い日に合わせられた場所も限られています。他に調べられなかった生息環境の候補としては、ミヤマトウキが生育するような高山帯の火山礫地や崩壊地が考えられます。秋田県では記録がありませんが、野焼き草原や海岸草原の残る男鹿や冬師などに生き残っていないかとの期待もあります。