ホンシュウジカ
Cervus nippon aplodontus

日本全国に生息する草食の哺乳類.オスは春に角が生え変わり,秋には立派な角を完成させる.胴体の鹿の子模様は夏にだけ見られるらしい.同じ大型草食動物であるカモシカが急峻な地形を好むのと異なり,平坦な環境を好む.
原因は明らかになっていないが,近年全国的に分布の拡大,個体数の増加がとまらない.林床の植物を食べ尽くし,有毒植物だけが残った植生を作り出せばまだ良いほうで,それすらも食べつくして草が生えない森が各地で見られるようになった.渓流沿いの岩場でしかまともに植物群落が見られなくなった場所も少なくない.
岩手県では,北上高地を中心に猛烈な勢いで分布が拡大している.かつては釜石市の五葉山が分布の北限であったが,現在その北限は青森県にも至っている.高所にも分布を広げ,標高1,000 mの高原にも当然のように分布し,早池峰山の高山植物帯にも現れているようだ.大槌町周辺では土坂峠や笛吹峠,箱根峠周辺の広葉樹林で食害が顕著である.これらの場所では平坦な林床ではほとんど草本が見られない.
ここ数年で出会った場所を,全てではないが挙げてみる.
2015年:兵庫県神戸市道場,鈴鹿山地霊仙山
2018年:岩手県大槌町土坂峠,新山高原,遠野市笛吹峠,仙人峠,宮古市小国,岩泉町櫃取湿原,普代村
2019年:山形県月山道路,岩手県大槌町筋山,青森県八戸市種差海岸
兵庫県の六甲山には鹿が生息していないと言われているが,その北東端といえる道場で確認されたので,侵入するのも時間の問題と思われる.
霊仙山は鹿の密度が高すぎて有毒植物が優占する山となっていた.そのラインナップ:アセビ,バイケイソウ,フクジュソウ,ミスミソウ,ヤマシャクヤク,イブキトリカブト,オニシバリ(チョウセンナニワズ?),ヒトリシズカ…
2019年4月に月山道路(正確にはそこから入り込むスキー場への道路)で出会ったのは非常に驚いた.鹿といえば積雪に弱く,日本海側にはほぼ分布していないというのが通常であった.それが,日本一レベルの積雪地帯である月山にまで侵入していた.2 m以上積もった雪の回廊を車で追いかけることになったが,まだ草などどこにも生えていない.何を食べて生き延びていたのだろうか.
三陸では,半島の急峻な地形ではカモシカ,川沿いの平坦な地形ではシカというように見られる場所が異なっていたが,2019年,大槌町では半島先端の森でも出現するようになった.
写真のものは,青森県八戸市の種差海岸で出会ったもの.アサツキの花に囲まれてメルヘンな雰囲気に撮れてしまったが,岩手県内での惨状を知っているとあまり良い印象を受けない.三陸海岸随一の種差のお花畑も近いうちに失われることになるかもしれない.

▲写真1:2019年6月,青森県八戸市種差海岸


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