ベニテングタケ
Amanita muscaria

亜高山帯の苔むした樹林帯でよく見られるAmanita.どこまでも苔と針葉樹の緑色が続く樹海の中で,本種の作り物のような紅色に出会うと非常に美しく感じる.ホストはコメツガやシラカンバ,ダケカンバなどが知られている.従って日本では中部地方以北の山岳地域が主な分布域となり,関西人には憧れのキノコである.
毒キノコの代名詞のような存在だが,食べると確実に命を落とすような猛毒を持っている訳ではない.ほぼ本種のせいで,派手なキノコが毒キノコという迷信が生まれてしまったように感じる.
写真のものは,山梨県の富士山山麓の針葉樹林で出会ったもの.この個体はまだまだ幼菌で,これから開いて大きくなる.流石に富士山は噂どおり,キノコの種,量ともに豊富で面白い山であった.中部地方では,他に八ヶ岳や大菩薩嶺,北岳などの亜高山帯針葉樹林で見たことがある.
岩手県内では,一度だけ本種を目撃したことがある.標高700mほどの高原地帯のキャンプ場で10月中旬頃に発生していた.周辺はシラカンバ,ダケカンバ,カラマツ,ミズナラなどの樹林帯であり,特にミズナラ樹下に多くみられた.北上高地を訪れたことがある人はご存じだろうが,この地域にはコメツガやオオシラビソといった針葉樹は基本的に生えていない.基本的に高所では,植林のカラマツを除けば落葉広葉樹林が圧倒的に優占するような環境である.富士山や八ヶ岳での発生環境に慣れていると,一面薄茶色に染まった晩秋の落葉樹林から発生するベニテングタケは新鮮に感じた.
海外では北半球に広く分布しているようで,英語ではFlyAgaricと呼ばれる.flyとはハエのことで,本種にハエを駆除する効能があることに由来する名前である.

▲写真1:2016年8月,山梨県富士山


ハラタケ目 (Agaricales)
菌類 (Fungi)
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